梅田望夫さんのインタビューについて、ゆっくり反応してみる(1)

日本のWebは「残念」 梅田望夫さんに聞く(前編) (1/3) - ITmedia NEWS
Web、はてな、将棋への思い 梅田望夫さんに聞く(後編) (1/3) - ITmedia NEWS
My Life Between Silicon Valley and Japanより
岡田有花さんインタビュー - My Life Between Silicon Valley and Japan
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梅田望夫さんのインタビューがものすごい勢いで話題になっている。みんな反応が早すぎ。
せっかくのwebなんだから時間的な制約から逃れて、もっとゆっくり話した方がいいんじゃないかと。
というわけで、まずは元になったインタビューの交通整理編。
一応、このために「ウェブ進化論」と「ウェブ時代を行く」を読み直したよ。


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まずはインタビュアーの岡田有花さんの立場の紹介から。きちんと自分のポジションをさらした後、本編のインタビューに入るのは清いと思うね。

3年前、Googleを賞賛し、Webの可能性を力強くに語った梅田さんが今、Webについて語ることを休み、一流の棋士たちに魅了されている。
梅田さんは日本のWebに絶望し、将棋に“乗り換え”てしまったのだろうか――記者は新刊からそんな印象を受け、梅田さんに疑問をぶつけた。

これがインタビュアーの岡田有花さんが事前に抱いていた構え。
何の予見ももたずにインタビューに当たれ、という人もいるかもしれないけれど、それではただのご用聞きになってしまう。それまでwebの可能性について語っていた梅田望夫さんが今度は将棋の本を出す、というのだから、まあこれぐらいの違和感を抱くのは当然かと。
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梅田さんが日本のwebについて抱いた感想。

今のネット空間について、意図することがあるから語ってないわけではありません。
とはいうものの残念に思っていることはあって。英語圏のネット空間と日本語圏のネット空間がずいぶん違う物になっちゃったなと。

梅田さんが日本のwebの風景を残念に思っていることは間違いない。問題は、これは個人的に好みに合わない、なのか、客観的に「残念」なのか、ということ。以後も微妙に揺らぐ。
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英語圏ネット空間は地に着いてそういうところがありますからね。英語圏の空間というのは、学術論文が全部あるというところも含めて、知に関する最高峰の人たちが知をオープン化しているという現実もあるし。途上国援助みたいな文脈で教育コンテンツの充実みたいなのも圧倒的だし。頑張ってプロになって生計を立てるための、学習の高速道路みたいなのもあれば、登竜門を用意する会社もあったり。そういうことが次々起きているわけです。
SNSの使われ方も全然違うし。もっと人生にとって必要なインフラみたいなものになってるわけ。

英語圏のwebのあり方に仮託して、webの世界がこういうふうだったらいいな、というのを梅田さんが語っているところ。
ポイントは二つ。知的な情報を取得したり、発信したりして、知的な切磋琢磨の場としてのwebの使い方。
それと、実名優位なwebの使われ方。当然、実名を使うwebの方が、現実の世界のキャリア設計なんかと連動させやすい。
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日本のwebの特徴、あるいは梅田さんが残念に思っている部分について具体的に。このへんは歯切れが悪い。

そういう、「総表現社会参加者層」みたいなのが、人口比で言えば500万人とか出てくると。少なくとも英語圏ではそういう層が分厚くて、そこがある種のリーダーシップを取っているわけだよね。
(略)
アルファブロガー」的なものも、最初のうちにぽーんと飛び出した人からそんなに変わってないじゃないですか。それが100倍、1000倍になり、すごく厚みをもって、という進展の仕方と違う訳じゃない。

まあ言ってしまえば、ブログで知的なやりとりをする人が少ないよね、と。そこが日本のwebについて残念に思っているところ。


サブカルチャー強いよね、日本は。それも全然否定してないよ、日本のサブカルチャー。日本発グローバルでさ。ただ僕自身がサブカルチャーはそんなに……。僕は漫画読まないしアニメみないしさあ。志向性がちがうだけで。

サブカルチャーの強さについては評価。でも、専門ではないし志向が違うのでよく分からない部分があると。

ただ、素晴らしい能力の増幅器たるネットが、サブカルチャー領域以外ではほとんど使わない、“上の人”が隠れて表に出てこない、という日本の現実に対して残念だという思いはあります。

ここも受け取り方の割れるところで。
「日本のwebがサブカルチャーにばかり使われていることへの不満」なのか、「サブカルチャーばかりで、”上の人”が表に出てこないことへの不満」なのか。
たぶん、ネット上で多くの人の憤激をかったのは、前者の解釈で、梅田さんが不満を表した、というふうに多くの人が受け取ったせいだと思う。
「自分は”上の人”だが、そんなことはない、日本のwebでも知的な情報交換はじゅうぶんに行われているぞ」というふうに怒った人はいない。
実際、個人的にも、たぶんアメリカに比べて、知的な切磋琢磨のためにwebが使われる、ということは少ないのかな、と思う。その点に関しては、梅田さんの発言について怒った人でも、認めるところじゃないかしら。専門家ブログもたくさんあるけれど、それよりは、サブカルチャーのweb利用の方が何倍も、層が厚く、またその使い方も情熱的かつ先進的。
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インタビューの後編へ。
梅田さんが個人的に、知的な人がぎりぎりのところでせめぎ合うような、そういう超一流なものが好きだ、ということ。
話がまた最初に戻ってしまうけれど、個人的に超一流の知性が好きだから、サブカル中心の日本のwebが残念に見えるのか、それとも、客観的に見て、日本のwebってダメだよね、という話なのか宙ぶらりんのまま。
それがどちらであるかはまあ、どうでもいいこと。これは生のインタビューではなく、編集された記事なのだし、梅田さん個人の思いがどうなのか、というのは、どちらかといえば、脇道の話。
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以上をふまえて主な論点をまとめるとこういうことになるんじゃないかと。

  • 日本のwebはサブカルチャー中心である。それは残念なことなのかどうか。あるいは、高度な知性が切磋琢磨し合うようなwebの形に比べて良いのか悪いのか。
  • 日本のwebの知性の問題。日本のwebに知的に高度な参加者の層が薄い問題。
  • 日本のwebが匿名中心で、なかなか現実の世界のキャリア形成や、人生設計とリンクしない問題。実名が中心のwebと匿名が中心のweb、どちらがのぞましいのか、などなど。


「日本のweb」というふうにつけたけれど、これは別に日本だけの問題ではなく、もう少し普遍的に考えられると思う。サブカルチャーばかりがwebを使う光景は残念なのか、とか、実名を使うwebと匿名中心のweb、それぞれの長所と短所、といった具合に。
これらについての意見を持っているけれど、それは次の記事で書きます。
結論だけ言えば、日本的な(別に日本だけに固有というわけではありません、この名称は便宜的なもの)、日本的なwebの使い方には梅田さんの気づいていない良さもあるけれど、やっぱり短所もあるよ、と。そういうことになります。
続く。